日本の中期目標を考えるセッション
先週5月8日、東京港区の三田共用会議所で開かれた「(地球温暖化の)中期目標を考えるセッション」に参加しました。日刊温暖化新聞(http://daily-ondanka.com/)を主宰する枝廣淳子さんが、「地球温暖化対策の中期目標に対するパブリックコメント」の締め切り日(5月16日)を目前に控えたこの日に開催を呼びかけられたのです。
このセッションでは、政府が提案した6つの選択肢について、内閣官房参事の鎌形氏から基本的な説明を受け、中期目標取りまとめに関わった3つの研究所(国立環境研究所、地球環境産業技術研究機構、日本エネルギー経済研究所)からの補足説明を受けて、参加者が少人数に別れて自由な意見交換を行い(ワールドカフェ方式)、それぞれで自分が良しと思う中期目標を考えました。
環境省と経済産業省の担当者も交えたこのセッションは、とてもエキサイティングで有意義でした。その過程で、私も自分の意見を深めることができ、先ほど意見を提出したところです。
この中期目標についてのアウトラインは、次のURLで知ることができますので、ぜひのぞいてみてください。(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/tyuuki_iken_syousai.pdf)
枝廣淳子さんは、この問題を考えるための視点を環境ニュースで提示されています。許可をいただいたので、その一部を紹介します。
〈ここから引用〉
(1)世界のCO2排出量
「世界全体のCO2排出量は、自然体だと2050年までに現状の2倍になりますが、
半分まで減らす必要がある」ことを国際社会は認めています。IPCCでは、「附属
書1国(先進国)の排出量を2020年までに25%から40%削減することが必要」と
述べています。
(2)日本のCO2排出量
世界全体の排出量のうち、日本が占める割合は現在4%です。京都議定書で日本
は90年比マイナス6%の目標を掲げました。これは森林等の吸収源や排出量取引
を含めての数字なので、それらを差し引くと、実質的な排出量削減の目標は90年
度比マイナス0.6%となります。しかし、実際には2005年には90年比7.7%の増加と
なっています。
(3)中期目標
2009年末のコペンハーゲン会議(COP15)で2013年以降の国際的な枠組みに合意すべく、
国際交渉が続けられています。EU、米国はすでに、それぞれの中期目標を発表しました。
EUは、90年度比マイナス20%(2005年度比マイナス14%)の目標です(90年から2005年の間、
EU加盟国が15から27カ国に増えるなどして、EU全体の排出量が減っているためです)。
米国は、2005年度比マイナス14%(90年度比±0%)という目標です(米国は90年から2005年
の間に排出量を14%増大させているからです)。
(4)日本の中期目標の6つの選択肢
― 中略 ―
ひとつ、補足ですが、国際的な公平性を考える場合、公平性の基準を何にするか
によって、各国の必要な削減が異なってきます。これまで対策技術の導入が進ん
でいる日本は、「限界削減費用」を基準に用いたいという声が強いですが(特に
産業界)、世界的には、この指標を前面に出しているのは日本とカナダしかない
といわれており、ほかにも「一人あたりの削減量」や「GDP当たりの削減費用」
など、さまざまな公平性の基準が各国から提唱されています。
(5)中期目標を考える際の重要な視点
中期目標を考える際に、重要なポイントが少なくとも3つあると考えています。
1つは、「被害が大きくならないうちに温暖化を止めるための長期目標」を実現
できるよう、2020年までに、何をどこまで進めるのかを明確にすることです。住
宅30年、工場20年から30年、自動車10年から20年と、寿命が長いものほど早期
対策が大きな削減を生みます。
また、2020年で温暖化対策が終わるわけではありません。2020年後もしっかりと
削減が進んでいくよう、2020年までに技術の進歩とコストの削減の勢いをつける
必要があります。2020年に向けて高い目標を掲げることで早期対策・早期投資を
進め、技術とコスト削減を進めることで、2020年後も大きな効果を生み続けるこ
とができます。
もう1つは、「資源・エネルギー制約の時代」になっても、日本がいきいきと幸
せに繁栄していくための技術開発や社会・経済のシフトを進めることが必要であ
り、その後押しするための中期目標が必要です。
現在、炭素吸収源という制約から温暖化の問題が出ていますが、これからほかに
もさまざまな資源・エネルギー制約の問題が出てくるでしょう。それらに個別に
対応するのではなく、根本的な対応ができるよう、日本の社会や経済の形を変え
ていく必要があります。技術的な解決策だけではなく、ライフスタイルや産業構
造の変化も必要です。中長期的な日本のあるべき姿とそのための移行に資する中
期目標を設定する必要があります。
3つめに、国際的な協調体制をつくっていく必要があります。現在、附属書I国
は、世界全体の排出量の30%を占めるにすぎません。米国や、中国をはじめとす
る途上国が参加する枠組みづくりが必須です(ちなみに米国は、中国・インドな
どの途上国が入っていない枠組みには参加しないという姿勢を明らかにしていま
す)。
途上国が参加するには、まず日本をはじめとする先進国がこれまでの排出に対す
る責任をきちんと受け止め、自らにしっかりした目標を設定することが前提条件
となるでしょう。そのうえで、資金・技術の移転を進めつつ、途上国に対しても
徐々に拘束力のある枠組みを設定していく必要があると考えます。
〈引用ここまで〉
この提言の中で一番大事な視点は、世界規模で2050年のCO2発生量を現在の半分以下にする、
という目標を実現するためには、世界でも日本でも、現在の経済システムを根本から変える必要があるという点でしょう。私達は、かつて経験したことのない「資源・エネルギー制約の時代」に突入したのですから、破滅を避けるためには、その条件のもとで幸福と繁栄を実現できる、新しい経済・社会システムへのシフトを進める他にはないのです。
もう一つ大事なことがあります。それは、政府案の2番目の選択肢の根拠とされている、「限界削減費用均等」という考え方の問題点です。これは、私なりに分かり易く表現すると、日本は他の欧米諸国よりも対策が進んでいて、CO21トンを削減するための技術コストが大きいので、コスト公平の観点からみると削減率の目標は欧米諸国よりも少なくて当然だ、という考え方です。ありていに表現すれば、削減目標を高く設定すると日本が損をするから、できるだけ低く設定しようという主張です。共通の目標を達成するための自国の負担は、少なければ少ないほどベターだというわけです。
ここには、地球生態系の破局と対峙してこれを乗り越えるという人類共同のミッションを達成するために、我が国が先頭をきって努力するという志はひとかけらもありません。見えてくるのは、負担はなるべく他国に負ってもらい、自国については可能な限り現状を維持していたいという打算だけだといえば言い過ぎでしょうか。そんな「公平」には、どんな普遍性や価値もないと私は思います。 (角田 記)
*会場内の写真撮影が禁止でしたので、案内板と受付の風景を撮影してきました。