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「天然住宅」ということ

東京ビッグサイトでのエコプロダクツ展が終了した翌日の12月12日、早稲田大学の西早稲田キャンパスにいってきました。非営利一般社団法人である「天然住宅」を中心とした、「林業・林産業・住宅建築・維持管理までを一気通貫につなげることで、森の再生と長寿命住宅の実現をはかろう!」というプロジェクトが主催するフォーラムが開催されていました(科学技術振興機構支援事業)。
      http://tennen.org/

基調講演を行った田中優さん(未来バンク事業組合理事長)をはじめ、このフォーラムで発信された内容は広範多岐にわたっていて、とても紹介できませんが、宮城県栗駒山での森林経営を自ら担いつつ、そこから産出される木材を使って、安全で耐久性のある木造住宅を提供することで、中古住宅市場の実現をめざすという基本戦略には大いに共感しました。
又、そこでのNPOバンクの役割の重要性の指摘や、具体的な手法(皮むき間伐、ペレット化、山地酪農、林業連携型養豚=えこふぁーむ等)の提案は、とても刺激的でした。

その反面、ウーンと首をひねる論点もいくつか・・・。
その第一は、すべての接着剤を排除するという主張。この場合、集成材はもとより、合板・パーチクルボード・MDF・エスウッドといった木質ボードの全てが使用不可で、建築や家具の資材として使用できる木材は製材品だけということになります。ならば、製材品にならない木質資源はどうするか?燃料へ、ということなのでしょうが、その選択が森林資源のカスケード型利用による林業再生、ひいては循環可能な文明の実現にとってベターな選択なのかどうか、ここはしっかりと考える必要があります。
「天然住宅」でいう「天然」とは、人工的に合成した物質という意味での「化学物質」に対する対抗概念だと思われますが、本来「化学物質」の定義は、「原子、分子、および分子の集合体や高分子集合体のような独立かつ純粋な物質」ですから、この世で化学物質でないものはありません。天然木材といえども、アセトアルデヒドも出せば、ホルムアルデヒドも放散する化学物質なのですから、大事なことは、良い化学物質と悪い化学物質をきちんとマネージメントすることだと思うのですが、いかがでしょうか。

その第2は、上記の意味での「天然住宅」の「オーガニック住宅」としての認証制度を作ることで、低炭素社会の実現を図る、という主張。木質ボードでありながら、無垢材同等の物性の実現を目指すエスウッドプロジェクトは、もちろん国産無垢材にこだわる「天然住宅」という考え方を尊重します。
ですけれども、低炭素社会へ向かう道は、大いに賑やかで多様であったほうがいい(^^;
その賑わいに、「認証制度」は似合わないように感じたのでした。

第3は、木材の成分であるリグニンやヘミセルロースを壊さない60度以下の低温乾燥による強度や耐久性の確保という主張。高温での木材乾燥については、利点とともに欠点についても沢山の指摘がありますので、この論点については今後の検証を期待したいですね!
同時に、ポリエチレングリコールによって可塑化されたリグニンやヘミセルロースが、160度から180度の高温加圧によって更に可塑化(柔らかになること)されて混じりあい、ゴム系成分とのハイブリッド融合体を形成した後に、水分の蒸散と温度低下によって固化するというボード成形のメカニズムを主張しているエスウッドプロジェクトとしては、オルタナティブな道もあるでよ!と付け加えたい所です(笑)。木の香ただよう桧ストランドボードの焼き上がりを、ぜひともご覧くださいネ(^^;
強度の面でも、12ミリ厚の桧エスウッドは、壁倍率で3.7のデータが得られています。ただし、開発してからまだ10年しか経っていませんので、耐久性は10年しか立証されていませんが(笑)。

ともあれ、田中優さんの、「船による輸入木材の運送コストが、国内でのトラックによる運送コストより安いのは、国境線を越える石油が非課税だという不公平に起因している。」という目からうろこの指摘をはじめとして、有意義でエキサイティングなフオーラムに参加できてラッキーでした。
山と町をつなぐ新しいシステムの実現をめざして、大いに切磋琢磨できるといいですねー。

画像は、フォーラム開始時のスクリーンと講演中の田中優さんです。      (角田 記)