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福井市至民中学校レポート第3回

至民中学新校舎の設計を担当されたのは、地元の設計工房顕塾(げんじゅく)さんです。第1回のレポートで、この建物が驚くほど開放的で柔らかな空間で構成されていることをお伝えしましたが、顕塾を主宰する柳川正尚さんは、その理由について「様々な個性を秘めた生徒達をおおらかに受け止め、多様な新しい学びの活動を柔らかく支える学校建築をめざしたからです。」とおっしゃっています。

顕塾さんの基本構想を具体化するために、生徒、先生、地域の人たちによる何回ものワークショップが開かれ、皆さんの思いを形にするための粘り強い作業が行われたそうですが、そのファシリテーターを務めたのがお嬢さんの柳川奈奈さんでした。奈奈さんが一番念頭に置かれたのは、「協働探求としての学び」「自治・交流・協働を旨とする生活」を実現するための、柔軟な空間の創造だったそうです。具体的には、第2回のレポートで紹介した学校を構成する多様な集団(小グループ、クラス、先生、異学年集団、学校、地域など)の多彩な活動の円滑な実施とそれらの相互交流による学校文化・地域文化の創造を支援する場の実現とでもいえるでしょうか。

そのために、「地域のまちかど」と位置づけられた平日でも地域の人が立ち寄れる「葉っぱの広場」、パブリックスペースと位置づけられた教科エリアでの異学年の学習成果が共有できる「広場」や、授業内容に応じて自由に広さを変えることの出来る可動間仕切りで区分された連続教室、ユニークな中庭や校外自然環境と一体になった校舎が作り出す多彩なスペースなどの沢山の工夫がこらされたということです。

さて、下の平面図に示したような全く固定観念にとらわれない非構築的な建物を、必要な構造上の基準を満たす安全な建築物として建てるのは簡単ではなかったと思われますが、意外にも建築コストは、他の学校建設に比べて低い水準に納まったということです。余分な装飾を排した、打ちっ放しの鉄筋コンクリートの構造とパケットフロア・石膏ボード・ストランドボードの内装というシンプルな組み合わせの成果だったのでしょう。

*画像は校舎本体の一階平面図。人物写真の左が柳川奈奈さんです。