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各務原市須衛町7丁目の夕焼け

各務原市須衛町7丁目という場所は、30余年に及ぶ私の仕事場である。街の中心部から少し離れた変哲もない山麓の田園地帯だが、ここに岐阜木材工業団地という協同組合が設立されて以降、ずっと通い続けている。

先週末の夕方のことだが、仕事を終えて愛車ブルーバードに向かうと、思いがけず正面に鮮やかな夕焼け空が広がっていた。接近中の台風に伴って断続的に降る長雨の途中の短かい晴れ間のことだ。あわてて携帯電話を取り出してカメラのシャッターを切った。

この夕焼けには鮮明な思い出がある。もう20数年も以前のことだが、その頃私は前の勤務先で経営者の一員だった。とはいえ、会社という組織になじめず、木材というマテリアルにも興味が持てないでいた。毎日を鬱々として過ごしていた私のせめてもの救いは、事務所を抜け出して工場の周辺を一人で歩きまわることだった。恥ずかしいことだが、私は自分に囚われるばかりで、他のことは何一つ見えず、聞こえず、考えないでいたのである。けれども、ある日突然に、燦然と輝く夕焼けが見えた。
私の小さな悩みなどとは全く無関係に、夕焼けは厳然としてそこにあった。これほど美しかった光景との出会いは、他には思い出すことができないほどだ。

あれから二昔を超える時間が流れた。時代は変わり、気がつくと身辺の様子も随分と変わってしまった。喜びや悲しみを共にしてきた家族や友人も少なからず鬼籍に入ってしまっている。
とはいえ、私が各務原市須衛町7丁目という場所で、黄金色に輝く夕焼けと対面している事実には
何の変わりもないのである。  (角田 記)