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今週の本:「神去なあなあ日常」(三浦しおん 徳間文庫)

久しぶりに、小説を読みました。きっかけは、映画「WOOD JOB」。
5月半ばの土曜日に、名古屋駅前のピカデリーに出かけました。

うーん、なんというか、とても清々しい映画でした。林業の現場の深い取材に基ずくリアルな映像の素晴らしさはもとより、個性あふれる登場人物たちによって織り出される人間臭いドラマに、胸を打たれました。

男優では、「林業の天才」と自称する「ヨキ」を演じる伊藤英明さん、女優では主人公(染谷将太さん)の「片思い(?)」の相手である「直樹」を演じる長澤まさみさんが強く印象に残りました。
人間、まだまだ捨てたもんじゃない、と伝えてくれるオーラがいっぱいでしたねー。

とりわけ、主人公が、一年間の林業研修を終えて、いったん電車にのって町に帰るラストシーンで、長澤さんが、ヤンキー文字で「愛羅武勇」と書かれたタオルを頭上に掲げて、「サヨナラ」「サヨナラ」と叫び続ける場面が忘れられません。

で、原作の「神去なあなあ日常」を読んでみました。
いやあ、面白かったですね!この作者=三浦しおんさんの筆力は凄い!
いちころで参りました。

ところで、「神去」というのは村の名前で、「なあなあ」というのは、「神去弁」で、「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」という意味だそうですが、転じて「いい天気ですね」も意味するらしい。まあ、神去村の世界観と言ってもいいでしょう。ですから、本書の謎めいた書名は、「神去り村の1年間の林業研修で体験した『なあなあ』な世界」という明確なテーマを示しているわけです。

映画と小説のストーリイは、ジャンルの違いを反映して、かなり違います。
一般論ですが、映画の登場人物は、小説に比べてキャラが強調されますし、ドラマの展開も分かりやすく、ダイナミックです。これに対して、小説の方では、主人公の成長過程や、人間関係の微妙なバランスの推移が精緻に描かれることが多い。

この観点から見ると、ヒロイン直樹さんの「失恋」の対象が、映画では以前に神去村に滞在したものの、「山仕事」に坐折して都会に逃げ戻ってしまった青年と想定されているのに対して、小説では、直樹さんのお姉さんの夫である「親方」(神去村随一の山林地主で主人公が勤務する「中村林業の経営者)への思慕であるという違いが大きい。
小説において、駆け出しの林業研修性である主人公の直樹さんへの恋心が、複雑に屈折しつつも、
山で生きることへの覚醒に向かうことの必然性がそこにあると強く感じました。

なので、小説では映画のラストシーンはありません。主人公の神去村に生きて死んでいくという覚悟
は既に決定しているのですから。

まあ、林業については掠っている程度の私が多言を弄しても始まりません(笑)。
百聞は一見に如かず。

我が国の森林・林業に関心をお持ちの人も、そうでない人も、まだでしたら、まずは映画「WOOD JOB」を観て、小説「神去なあなあ日常」をお読みください。

人生が豊かになること、間違いありません(^^;

(角田 記)